ガンパレ開発者が語る「ゲーム世界観の作り方」とは? DiGRA JAPAN月例会


東京大学で10月27日、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の第5回月例研究会が行われた。株式会社ベックの芝村裕吏氏が講演を行い、ゲーム世界観の捉え方や、世界観構築の実例などについて語った。
芝村氏はその中でも「名前でゲームが売れる」数少ない存在である。提唱者でもジャンルを越えて世界観に基づく作品を発表している。
ゲームにおけるとはじめに定義。
ゲーム特有の「ハードウェアの限界」という事情により、世界観という用語の成立と定着がメディアとは異なっていたと述べた。世界観という言葉がゲームシーンで最初に使われるようになったのは、「ゼビウス」あたりだと思われるが、当時は限界から、表現マインドの一部しかゲーム中で表現できなかった。
その補完としてイメージイラストやサブテキストが提供され、クリエータの表現欲求と、世界観を楽しみたいというユーザニーズを充足させていた。表現したかったものはゲーム中には存在せず、心の中にしか存在しなかった。
ユーザが、表現内容やサブテキストなどから、作者の心に思いをはせるようになった。80年代後半には、この「世界観」を効率的にユーザに伝える手段として、RPGという装置が発明されたことで、世界観をキーワードにしたゲームが大量に発売されることになる。
実際はシューティングゲームやアクションゲームなど、ジャンルにも世界観に優れたゲームは存在した。テレビゲームの技術進化が急速に進むにつれて、表現したい内容がゲーム内で表現できる時代を迎えた。
ゲーム開発においてこの傾向は顕著であり、結果として「作者に思いをはせる」隙間がゲームから失われていく傾向にあるという。
その上で世界観という概念におもしろさを感じるユーザは、高年齢層に多いと1セグメントに特化したジャンルとして、世界観主体のゲームビジネスは生き残ると指摘。ゲームを元にウェブやインターネットで作者とユーザがコミュニケーションする、アイディアを述べた。第二部では、実際のゲーム開発におけるゲーム世界観の構築例について、「芝村流」講義が行われた。
上流では川幅は狭いが、流れは速い。下流になると川幅は広くなるが、流れはなる。これをゲーム開発に当てはめると、川幅は作業人員で、流れの速度が作業の重要度となる。企画や世界観構築などは上流、開発工程は中流、デバックなどが下流。その上で重要なのは、流れが逆流しないように、ゲームの開発工程においても、上流のミスを下流で挽回するのは非常に難しいとした。一般的にゲーム開発の工程は、「発起」→「企画」→「システム設計(仕様)」→「開発作業」→「デバック」となり、世界観設定はその中でも上流過程、だいたい企画の前段階に位置づけられるという。
芝村氏が過去100本近くゲーム開発に携わった中で得た実体験だという。
重要なことは、ゲーム開発はビジネスであり、世界観構築においてもその原則から逃れることはできないとした。オリジナリティとはリスクのことであり、この原則は商品開発においても、世界観においても当てはまる。定義は難しいが、「リスク」と言われるとわかりやすい。
この割合はジャンルの設定や世界観の構築、ゲームシステム、グラフィックなど、すべてに当てはまる。人間というハードウェアに、ゲームというソフトウェアを売ることを考えると、求められる独創性の幅は決まってくる。手が6本ある美少女キャラは、確かに独創的だが、売れないというわけである。これらを念頭におくと、ジャンルも自ずと決まってくる。
ジャンルが決まったところで、世界観の構築に入る。この順序が逆になり、世界観にあわせたジャンル選択が求められる。作業工程の逆流を意味しており、過去にキャラクタゲームに凡作が多い理由の一つだという。
企画やゲームシステムが平凡な場合は、世界観で独創性を出す場合もあるし、その逆もりという具合だ。ディレクタなりの心の中で生まれた世界観が成熟してくると、次にそれを開発チームに伝える必要がある。
独創的な世界観を、できるだけ少ないキーワードに整理し、チーム内で一つの世界を共有できるか。実際に芝村氏が最もエネルギーをかけるところだという。
 キーワードが出そろうと、次はキーワードの関連性や、矛盾点を解消する作業、いわばキーワードの肉付けを行っていく。
システム開発者とのキャッチボールで考証が進むことも多いという。これを実際のゲーム開発に繰り返す。この世界設定が終了しないと、実際の開発作業には移れない。
そのため世界観設定を短縮することが、プロジェクトの期間短縮に繋がり、販売上の機会損失も最小化できる。場合は、最初に大量に考証作業を行い、複数のゲームで世界観の再利用を行っていると述べた。グラフィックのテイストは陳腐化しやすいが、文章は日持ちが変更も容易で、誰でも作成できるため、世界設定はテキストベースで行う方がベターだとした。世界設定は、プログラマ、システム開発者などからチェックを受ける。
その上で作者が見ようとして世界観が何かを探求することは、ゲーム研究の分野でも重要では講演を終えた。

RBB Today - 2006年10月29日