「ミクシィ」笠原社長の素顔


鳴り物入りで東証マザーズへの上場を果たしたネット企業の「ミクシィ」。その陣頭に立つ笠原健治社長は、東大経済学部出身の30歳、独身。経歴からすると、いかにも今どきのIT経営者に聞こえるが、はたしてその素顔は? 570万人ものサイト会員を抱えるカリスマ経営者の実像に迫る。

本誌 関 仁巳/撮影 中山博敬
 東京・渋谷駅に隣接するオフィスビル19階のミクシィ本社。笠原社長は予定より少し遅れ、取材場所のミーティングルームに現れた。180センチ近い体を折り曲げ、丁寧に挨拶する。

 1時間にわたり、穏やかに自らを語り続けたカリスマIT経営者の話の中で、一番驚いたのは、東大3年生になるまで、ITともネットとも、ほとんど接点を持っていなかった、という点だ。

 新たな世界に踏み出すきっかけは1997年、経済学部3年生の時に、人気の高い経営戦略のゼミに入ったこと。

 「ゼミでは、『ウィンドウズ対マッキントッシュ』などITやネット関連のケーススタディーが多かったんです。ゼミ生は、1学年あたり6?7人。熱気があって、周りはできる学生ばかり。このままではヤバいと思いました」

 実はそれまで、笠原社長は、今は商売道具のパソコンでさえ、大学の授業で少し触ったことがあるくらいだったという。

 「アルバイトで肉体労働をしていたのですが、パソコンを使えないから自分にはオフィスワークは無理だと思っていたことも、理由のひとつです」

 柔和に見えても負けず嫌い。ほかのゼミ生に追いつくべく、新聞、雑誌やマイクロソフトのビル・ゲイツの半生を描いた書籍などを読みあさった。知識が増えるにつれ、ネットビジネスへの興味は強まり、より深く理解するため、パソコンを買うことにした。

 「起業することは、パソコンを持つ前から決めていました」

 というから、決断は速い。それからは一気呵成だ。アルバイトでためた約20万円でウィンドウズ95のパソコンを購入。すぐに通常回線よりもネット接続に便利なISDN回線を自宅に引き、深夜の特定番号への通話が定額の「テレホーダイ」に加入した。


読売新聞 - 2006年10月16日